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ビジネス特集 TSMC 日本進出の舞台裏は? | 台湾

TSMC 日本進出の舞台裏は?



半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCが、日本に半導体の新しい工場を建設する方針を明らかにしました。実は2年以上前から日本政府が水面下で誘致に動いていた案件でした。日本には名だたる半導体メーカーがあるはずなのになぜ国が海外の企業を誘致しようとするのか。少し“つらい”現実と、官僚たちの危機感、そして今後の展望を探ります。(経済部 仲沢啓記者 / 早川俊太郎記者)


デジタル機器の心臓部を制覇

ソニーが去年、発売したゲーム機「プレイステーション5」。高画質の4K映像と素早いキャラクターの動き。前のモデル(PS4)と比べると圧倒的に高速化がはかられているといいます。

このゲーム機の心臓部に使われている半導体はAMDというアメリカメーカー製ですが、生産しているのは台湾のTSMCです。このほか、スマホや高性能PCなど今や先端デジタル機器に使われる半導体をほかのメーカーからの委託で数多く生産する先端技術集団なのです。

日本進出方針を発表

10月14日、TSMCは決算会見の場で日本に半導体の新しい工場を建設する方針を明らかにしました。会見で会社の幹部は「顧客と日本政府から力強い支持を受けている」と明言しました。

総理大臣からも異例の言及

その夜、衆議院の解散を受けて記者会見を行った岸田総理大臣は、総選挙に向けて、さまざまな政策を訴えるなかで、個別企業であるこの半導体メーカーの日本進出にも言及しました。

岸田首相
「わが国の半導体産業の不可欠性と自律性が向上し、経済安全保障に大きく寄与することが期待される。総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援についても、経済対策に盛り込んでいきたい」

異例ともいえる総理発言。その背後には日本政府の焦りにも近い危機感がありました。

半導体トップの座から転落

この危機感を読み解くには少し半導体の歴史を振り返る必要があります。
かつて日本の半導体産業は世界を大きくリードしていました。1980年代後半、日本の世界シェアは50%以上。シェアトップ10には、日本のメーカーが6社も入るなど、2位のアメリカを大きく引き離す状況でした。
このころ日本が得意としていたのは「垂直統合」モデル。自社で設計から生産まですべてを担う方式でした。しかし、次第に設計と生産を分けるファブレスが世界の主流になっていきます。ファブレス、ファブ=工場、レス=持たない、工場を持たずに設計に専念し、生産は別の専業メーカーに依頼するという、「水平分業」の潮流に日本メーカーは乗り遅れたのです。
また、1990年代後半に日本は深刻な金融危機と景気悪化に苦しみ、メーカーは研究開発に思い切った投資ができなくなりました。政府も明確な半導体戦略を描く余裕もなく、思い切った資金支援もないまま、日本メーカーは急速に世界での競争力を失っていったのです。
2020年のランキングでは、トップ10に入る日本のメーカーはわずか1社となっています。

特定分野は強いけど…

今でも日本メーカーは特定分野では競争力を保っています。イギリスの調査会社、オムディアによりますと、例えばデータ記憶用のSDカードなどに使われる「NAND型フラッシュメモリ」の分野では旧東芝メモリのキオクシアが世界第2位です。また、電気を動力に変換する「パワー半導体」はさまざまな産業機械に使われ、三菱電機や富士電機など日本勢が高いシェアを占めています。

しかし、これから成長著しいと期待されるAI=人工知能や5G、データーセンターや自動運転などの分野で不可欠とされる高度なロジック半導体(=高度な演算処理ができる)を日本国内でつくることはできなくなってしまっています。ある半導体メーカーの関係者は「日本は世界の3、4周遅れだ」と自虐的に状況を説明してくれました。

「このままでは空洞化するぞ!」

政府が海外メーカーを誘致してでも半導体を強化しなければと強く意識したのは2018年から19年にかけてのことでした。
経済産業省ではアメリカのトランプ政権の行動に神経をとがらせていました。

アメリカは対中強硬姿勢を強め、2018年12月には、通信機器大手のファーウェイの次期トップとも目される孟副会長をアメリカの司法省からの要請で、カナダで逮捕。
2019年5月、当時のトランプ大統領はファーウェイなどに対し、アメリカ政府の許可なく電子部品などを販売するのを禁止する大統領令に署名しました。

経済産業省内では、こうした動きが加速すると、日本が8%余りを依存する中国からの半導体が手に入らなくなるリスクを警戒しました。さらに中国と台湾の緊張が高まり、仮にも中国が台湾に武力侵攻などをしたとすれば、26%余りを依存する台湾からの半導体も入手できなくなり、日本の産業は空洞化してしまうのではないか。官僚たちはこのとき、強い危機感を覚えたと、私たちの取材に心境を吐露しています。

経済産業省の担当者たちは2019年ごろからTSMCに接触を始め、日本への工場誘致を水面下で呼びかけました。反応はまずまずでした。台湾メーカーも日本での工場建設に関心を示していたとして、交渉をさらに進めます。

2020年5月、担当の官僚は飛び込んできたニュースに目を疑いました。TSMCが新たな生産拠点をアメリカ西部・アリゾナ州に建設すると発表したのです。メーカー側から経済産業省に日本での工場建設を断る手紙が届き、担当者はがっくりと肩を落としたといいます。

このとき、アメリカ政府は工場の建設費などのため、メーカーに数千億円規模の補助金を出す意向を伝えていました。グーグルやアップル、アマゾンなどがあるアメリカでは最先端の半導体需要が今後も伸びていくことが予想されますが、日本では先端半導体の需要がそこまであるとは思われなかったのでしょう。結局、「需要+強力な政府支援」、どちらも日本には欠けていた要素で、まんまとトランプ政権に工場案件を持っていかれてしまったということになります。経済安全保障の重要性を思い知らされることになりました。

諦めるのはまだ早い

“ここで諦めては日本の半導体産業の地盤沈下は止まらない”
官僚たちは後工程と呼ばれる、半導体をチップに切り分けるなどの工程を誘致しようと食い下がりました。前工程に比べれば産業への波及効果は小さいものの、日本には幸い、後工程に関連する技術で世界トップを誇る企業が残っていました。

担当者たちはこうした企業とTSMC側を取り持ち、ことし2月に茨城県つくば市にある国の産業技術総合研究所への研究開発拠点設立にこぎ着けました。

思わぬ追い風が吹く?

この頃、日本には想定外のことが起きました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってサプライチェーンが混乱し、世界中で半導体不足が深刻になりました。後工程の共同開発を入り口に、TSMC誘致と他国並みの資金支援に対する理解が政治や政府内で共有されていきました。
関係者の話を総合すると、直前までドイツやシンガポールなどがTSMCに秋波を送っていたということですが、日本政府の補助金も決め手の一つとなったようです。

何を作る?

関係者によれば、半導体工場の建設場所は熊本の菊陽町で、来年着工、2024年の稼働を目指しているということです。この場所はソニーグループの半導体工場に隣接する土地だということです。

生産予定の半導体は最先端のものではありません。
回路線幅が22ナノから28ナノというものです。この回路線幅、数字が小さくなればなるほど微細になり、高性能になります。現在、最先端は5ナノ、近く3ナノが登場するというなか、22ナノから28ナノは10年ほど前の技術となります。
ただ、国内外で多くの需要があるという利点があります。自動車用、さまざまな産業機械用、そしてソニーが熊本県で生産する、画像センサーの信号を処理し、画質の向上や画像認識を行うためのものとしてもニーズがあるのです。
最先端にこだわらず、需要のボリュームのあるサイズを攻めていく、世界で勝負するメーカーの冷静な判断も働いていそうです。さまざまな産業に必要な半導体を国内で供給できるという利点は経済安全保障の観点からも大きな意味があります。

きら星メーカー、日本に引き止めよ

この半導体工場が建設されることのもう一つの意味は、関連の部材メーカーや装置メーカーが国内に残りやすくすることにあります。日本の半導体メーカーそのものはグローバルな競争環境のなかで残念ながら多くが「3、4周遅れ」になってしまっていますが、実は半導体をつくるために欠かせないウエハーと呼ばれるシリコン製の土台や、半導体製造装置の分野では信越化学やSUMCO、東京エレクトロンやアドバンテストといった世界トップクラスの企業が少なくありません。

ただ、こうした世界トップのメーカーは日本企業だけと取り引きしているわけではなく、アメリカや台湾、韓国、中国などのメーカーにも製品を納めています。軸となる半導体工場が国内にないと、こうしたきら星のようなメーカーはいずれ日本から出て行ってしまうリスクがあり、その観点からも国内に大きな半導体工場ができる意味は決して小さくないのです。

課題はデジタルの需要づくり

政府がどれぐらいの補助金を出すのかは現在、経済産業省と財務省が協議を重ねており、最終的にはまだ固まっていません(10月22日時点)。

課題はTSMCと、取引先になる日本の産業とのwin-winの関係が続くかどうかです。
ボストンコンサルティングとアメリカ半導体工業会がまとめた興味深いデータがあります。国や地域別に半導体を消費=使用している比率を示したグラフでは、アメリカが25%、中国が24%、EUが20%ですが、日本はわずか6%にとどまっています。
日本でデジタル化が遅れ、半導体を使う製品の需要が増えなければ、せっかく日本国内で生産されたとしてもその半導体は宝の持ち腐れになってしまいます。需要が増えなければTSMCはそのまま製品を海外に輸出することを考えても何ら不思議ではありません。少子高齢化、人手不足という観点からもデジタル化を進めることの重要性は説かれていますが、産業の空洞化を招かないためにも半導体の使い手であるデジタル産業の立て直しをはかることができるかが、日本の半導体、そして産業全体を活性化する分け目になると感じました。

経済部記者
仲沢 啓
2011年入局
福島局 福岡局を経て
現所属で
経済産業省・
金融業界を担当

経済部記者
早川 俊太郎
2010年入局
横浜局 岐阜局
名古屋局を経て
現所属で
経済産業省を担当

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