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WEB特集 コロナ禍で“分断” どう乗り越える 医療者の心を守るために | 新型コロナウイルス

コロナ禍で“分断” どう乗り越える 医療者の心を守るために

新型コロナウイルスの感染は収束せず、感染してしまうのではないか、感染したら重症になるのではないかという不安を持ち続けている人も多いと思います。
こうした不安に最前線で直面しているのが医師や看護師など、医療従事者です。取材してみると、不安から“分断”とも言えるような事態が医療従事者の中で起きていたことが分かりました。(国際放送局・石坂冴絵 政経国際番組部・松村亮)

「病院の中でコロナの患者を診ない部門の人から、『あの人はコロナの患者さん見ているらしいよ』というような目で見られています。一緒にエレベーターに乗らないとか、一緒に会わないとか。私たちは感染してもいいわけ?と思うようなこともあります」

関東地方の病院で新型コロナウイルスの患者が入院する病棟を担当した看護師のことばです。匿名を条件に、8月、取材に応じてくれました。

新型コロナ担当の看護師は、感染対策もあって違う色の服を着ているということですが、エレベーターに同乗しないよう避けられることがあったり、感染を恐れる医師が「患者との直接の接触は看護師に任せよう」という発言を聞いたりしたということです。

看護師からの相談

新型コロナウイルスの患者を受け入れる病院の多くは
一般の病気の患者を診療する「非コロナ部門」と、
新型コロナウイルスに対応する「コロナ部門」に分けて、それぞれ担当するスタッフも固定して対応しています。

病院では、重症化リスクの高い患者も多く入院しているので、院内感染のリスクを下げるために必要な対応ですが、“分断”とも言えるような状況が生じているというのです。

新型コロナウイルスの対応に当たる看護師、500人以上の相談に乗ってきた日本精神保健看護学会の萱間真美理事長のもとにも医療者の中での分断を感じさせる相談が寄せられています。

「非コロナ部門の同僚から避けられるようになった」
「独身の看護師だけに仕事が押しつけられる」

萱間理事長
「『自分は捨て駒としていいかげんに扱われている』ということばを、いろいろな場所で違う人たちから聞いている。『現場での分断』という問題も、医療従事者の間の差別や不公平感、それにモチベーションの低下を招いて実際に看護師などが離職するケースも出ている。医療体制が維持できなくなる事態につながりかねない」

医療者にかかる さまざまなストレス

これまでも新型コロナウイルスに対応する看護師をはじめ、医療者はさまざまなストレスにさらされてきました。

感染してしまうのではないか、自分の家族に感染させてしまうのではないか、そして、強い使命感で対応しても感染を恐れる地域の人たちから偏見の目で見られるなど。看護師の離職が相次いだ病院もあります。

こうした新型コロナウイルスに際しての心の健康について、日本精神神経学会など、5つの学会はことし6月に合同で指針をまとめました。

その中では、医療者の心について
・感染の不安や恐怖に常におびえながらの激務は極めてストレスが強い
・強い使命感や責任感で仕事に取り組んだ人に燃え尽き症候群も起きる
・患者や地域からの怒りの矛先になったり、偏見の目が向けられたりすることもある
などとしてケアが必要だとしています。

こうした中で、医療に取り組む同志であるはずの医療従事者の間の関係も問題になっていたのです。

現場を孤立させない

医療従事者の心の健康をどう守っていくか、神奈川県相模原市にある北里大学病院は独自の取り組みを進めています。

北里大学病院では、地域の拠点の医療機関として、新型コロナウイルス患者の治療を担い、対応する医療者が孤立しないような対策を進めてきました。

その1つが、看護師からの相談を受ける体制を充実することです。

悩みを抱えていないか、現場の管理職が相談を常時受け付け、最低でも月1回は面接を行います。

さらに、演習や研究発表会など、グループで集まる場を定期的に設け、一体感を作り出そうとしています。

佐藤看護師長
「看護師の心の健康と、チームの一体感は表裏一体です。グループで集まる中で、『みんなストレスや不安と戦っている』という認識を共有してもらっている」

心のケアチームがつなぐ

病院では新型コロナウイルスの患者に対応するスタッフと、ほかのスタッフをつなぐため、心のケアを専門とする医師や看護師などで作る「心のケアチーム」を結成しました。

その中心メンバーの1人が「精神看護専門看護師」(リエゾン看護師)の資格を持つ白井教子さんです。

新型コロナウイルスの患者を受けいれている病棟を頻繁に訪れ、患者対応の悩みに加え、病院内の人間関係のトラブルなど、悩みを聞き取っています。

看護師の1人は、「何かあれば相談できる場所があるのは大きい。チーム全体で頼りにしています」と話します。

こうした対策が功を奏し、北里大学病院では、離職した人は1人もいないということです。

白井看護師
「私たちが現場を回っている中で、いろいろなストレスについて話せることもある。一緒にやりましょうという思いになってもらえる一助になればいいなと思っています」

一体になるマニュアル

コロナ禍で職場が分断されず、一体感を高めるための独自のマニュアルをウェブサイトで公開した医療機関もあります。

国内各地にある病院で新型コロナウイルスの患者に対応してきた日本赤十字社です。

マニュアルの大きな柱は、
「当事者意識を平らにすること」
「孤独感の解消」
「ストレス要因の理解」
「情報格差を埋めること」

たとえば、新型コロナウイルスに直接対応する人、しない人の温度差を減らすため、対応にあたる職員の活動をニュースレターなどで全スタッフに共有し、担当者のがんばりを評価して、感謝しようと呼びかけています。

また、孤立感を解消し、ストレス要因を理解するために帰宅する前に短時間でもミーティングを行って、お互いの気持ちを吐き出し、モヤモヤを家に持ち帰らないことが大事だとしています。

丸山医師
「知らず知らずのうちに人間関係が希薄になったり、一体感がなくなってしまったりしているが、どうすれば一体となってウイルスに立ち向かうことができるか、参考にしてもらいたい」

組織としてスタッフを守る3つのポイント

医療者の心のケアに詳しい国立がん研究センター東病院の精神腫瘍科長、小川朝生医師はコロナ禍のもとで、病院は組織としてスタッフを守ることが大事だとして、ポイントを3点挙げています。

「管理者はスタッフをよく観察すること」

業務の最中に落ち着かなかったり、ほかのメンバーを批判したりするなど、ふだんと違う様子があれば、現場から離脱させるなどの対応をとること

「負担の軽減、メリハリ」

業務が無限に増えるとも思われる中、休みを確実にとれるようにすることや、交代制を制度化して、たとえば2週間で交代するなど業務がいつ終わるか見通しをつけること、それに、優先順位をつけて、急ぎでない業務は後回しにするなど、メリハリをつけること

「都道府県など行政の支援」

医療機関と関わる都道府県は、スタッフの配置や患者対応でうまくいったケースなど、ノウハウをほかの医療機関にも共有してもらえるよう広く伝えるといった支援が必要

小川医師
「医療従事者の心のケアを個々の病院だけに任せるのは限界がある。新型コロナウイルスの対応の長期化が予想される中、行政が病床を確保するだけでなく、医療者の心のケアに関する系統だった支援を行うことも必要だ」

新型コロナウイルスの感染の第1波は収束し、その後の第2波もピークをすぎ、落ち着いた状態になっているとされます。しかし、海外では感染が再拡大。さまざまな制限が緩和され、今後、国内でも感染が拡大する可能性があります。

現場の医療者を守るために何が必要か検討し、分断の問題などを抱えながら踏ん張る現場の使命感だけに頼るのではなく、支える体制を作ることが求められています。

国際放送局
石坂冴絵

政経国際番組部
松村亮

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