ビジネス特集 前人未到の8重跳びへ プロ縄跳びプレーヤーの生きる道 | NHKニュース


あなたは、縄跳びの「2重跳び」はできますか?
私はできます。
では「3重跳び」はどうですか?
私は、自信がありません。
では「4重跳び」は?
たいてい、無理ですよね。
「大縄のなかで縄跳びをしたのが楽しかった」
保育園の文集にそんなことばを残した男の子は、それから数十年後、縄跳びに人生をかけ、なんと「8重跳び」という前人未到の記録を達成しようと挑み続けています。
(World News部 阿知波美帆 長谷川万起)

映像の男性、何をしているかわかりましたか。
驚異の7重跳び
男性は森口明利さん(31)。森口さんは繊維メーカーに勤めていた元会社員。現在は愛知県に拠点を置きながら、プロの縄跳びプレーヤー「もりぞー」として活動しています。
京都大学に入学 縄跳びに出会う
縄跳びを本格的に始めたのは学生時代。大学の縄跳びサークルに入部したのをきっかけに、その魅力に取りつかれたといいます.

森口さん
「もともとジャンプが好きだったので、縄跳びサークルがあるということでおもしろそうだなと思って入りました。自分が知らなかった縄跳びの形や(2本のロープで縄跳びのさまざまな技を繰り出す)ダブルダッチを知って興味をもち、そこから僕の縄跳び人生が始まりました」
8重跳びです。
森口さん
「(7重跳びを跳んだときに)まだまだ限界じゃない。自分の限界や納得できるところまで行ったらそこで終わると思うのですが、まだまだできることがあるなと」
「8重跳びに関しては、年齢を重ねてくると跳べない、挑戦すらできないレベルのものなので、このタイミングかなと思った」
肉体的な衰えも考えると、8重跳びに挑戦できる期間にもかぎりがある。そう考えた森口さんは、8重跳びを成功させるため、28歳で会社を退職。プロのプレーヤーとして縄跳び教室や小学校での出張授業で生計を立てる生活へと舵を切りました。
チームで挑む 8重跳び
8重跳び成功のカギを握るのは、「滞空時間」と縄の「回転速度」です。森口さんは、これまでの自身のジャンプを詳細に分析。空中に0.81秒浮くことができ、さらに縄を1回当たり平均0.1122秒で回転させることができれば、8重跳びを成功させられると考えています。

目標達成のため、各分野のプロもサポートしています。ジャンプ力を上げるため、パーソナルトレーナーとともに下半身の筋力を強化。トレーナーの浅見誠さんは、でん部の筋肉を鍛えてバネのように使えるようになったことで、滞空時間を以前よりも伸ばすことができたと話します。
靴でジャンプをサポート

ジャンプのカギを握るシューズを提供しているのは、シューズメーカーの「アキレス」です。小中学生向けに開発した最新のスポーツシューズを改良。靴底にはもともと、子どもの運動をサポートするため、衝撃を吸収し、反発力に優れた独自の素材が埋め込まれています。跳び心地や重さ、中に埋め込んだ素材の改良など、森口さんと調整を重ね、作り上げた試作品はこれまで10種類以上。かかとの部分を大きく削り取るなど、極限まで軽くした縄跳び専用のシューズを作り上げました。
縄を極める
縄跳びの縄の開発を担ったのは、ワイヤーロープの大手メーカー「東京製綱」です。明石海峡大橋をはじめとする橋、エレベーターやクレーンに使用するワイヤーなどさまざまな製品を作るこの会社にとっても、縄跳び用の縄を作るのは初めてです。

実は競技用の縄の多くは、回転速度を速めるため、ステンレスなどのワイヤーで作られています。縄を高速で回転させるためには、空気抵抗が少なく、より遠心力の働く素材が必要です。会社と森口さんが試行錯誤を繰り返して選んだ素材は、ステンレスに比べ約2.5倍の重さがあるタングステン。これで、適度に重く細い縄ができます。縄の太さは、なんと0.87ミリになりました。
開発担当者
「重すぎてもダメ、軽すぎても回らないというバランスが難しかった」
新型コロナ 感染拡大の影響も
新たな挑戦の日は11月21日。森口さんは「挑戦できることが幸せだと思いつつ、100%の力が出せるよう頑張りたい」と本番への意気込みを語りました。
運命の日 記録挑戦の結果は
8重跳びともなると、回転のスピードが速すぎて、飛んでいる本人すら縄は見えないといいます。森口さんが床を力強く蹴り上げる音と、縄が空気を切り裂く鋭い音だけが会場に響き渡り、応援する人たちも息を飲んで、森口さんの挑戦を見守りました。

「惜しい!」
思わず森口さんが叫びました。8回転した縄が体を通過するわずか前に、右足が縄を踏んでいたのです。映像を解析すると、あと0.012秒、滞空時間が足りていませんでした。
この日、森口さんが8重跳びに挑戦した回数は28回。挑戦を終えた森口さんの手や足には、硬いロープが何度も当たり、たくさんの傷ができていました。
森口さん
「体の調子もよかったですし、縄やシューズもすべてそろっていたと思うので、その中でここまでできたのは幸せだと思います。決めきれなかったのは自分の実力不足なので、もう少し精進したい。進化はできているので次こそは跳びたい」
跳ぶタイミング、縄を回す速さ。すべての要素がぴたりと合えば絶対に跳べる。森口さんの確信は今も変わりません。
「好き」を極める
この冬、森口さんは次の挑戦に備えて、全国の小学校を回り、子どもたちに縄跳びを教えています。
森口さん
「自分は興味を持ったことにいろいろとチャレンジして、その中でも縄跳びがいちばん好きだなと思って、縄跳びを極めていきました。いろいろなことに興味を持ってやってみたら、その中に好きなことがあるはずです。スポーツでも勉強でも、興味のあることにどんどんチャレンジして好きなことを見つけてほしい」

森口さんは、令和3年の中頃には、もう一度、8重跳びに挑戦したいと話しています。

World News部
阿知波 美帆
岡山局、経済部などを経て
英語ニュースの
取材・制作を担当

World News部
長谷川 万起
文化や社会問題など
幅広く取材
ネット配信用動画の
制作を担当
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